優等生の恋愛事情
遠巻きに見ている女子二人は「また始まったよ」とヒソヒソ言って、プフフゲララと笑っている。

そんな彼女たちをよそに、私は一人で黙々と掃除をする。


(文句言ってる暇あるなら、手足を動かせばいいのに。早く終われば早く帰れるんだし)


もちろん、心の中で思うだけ。口には出さない。もめるのは面倒だもの。


「センパーイ!お疲れ様でーす!」


元気な声でやってきたのは、運動部の大荷物を持った女の子二人組。小池さんと山本さん(プフフゲララの人たち)の後輩だ。


「はいはーい、ちょっと待っててー」


山本さんが後輩たちに目くばせすると、小池さんが私に向かって甘えるように言ってきた。


「ごめーん。途中なんだけど、私ら部活行っちゃってもいいかな?」


手を合わせて拝むような仕草をしても、顔はへらへら笑っている。


私は国語のテスト問題をぼんやり思い出した。


(“悪びれる様子もなく”って、こういう態度をいうのかな?)


「いいかな?」も何も、掃除なんてとっくにやる気がないくせに。それをまた特に悪いとも思ってないのだから。


「ちょっと!二人ともまだ終わってないでしょ!」


丸川さんが鼻息を荒くして言ったって二人にはどってことはない。


「運動部はこの夏が最後だしー」

「時間が惜しいんだよねー」


部活大好きの小池さんと山本さんの言い訳に、丸川さんのイライラ度数がさらに上昇するのがわかる。でも、残念ながら小池さんたちは気にしてなんていない。


「いいじゃん、ほぼほぼ終わってるし」

「そうそう。じゃあ、あとよろしくー」

「あぁ、ちょっと!」


そうして小池さんと山本さんは後輩たちと連れだって部活へ行ってしまった。


(これって“暖簾に腕押し”? ちょっと違う?)

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