優等生の恋愛事情
私が不思議そうに首をかしげると、諒くんは「ごめん、ちょっと持ってて」と金魚鉢の袋を私に預けてスマホを取り出した。

そうして、学校での写真を見せてくれたのだけど。


「これ、僕のクラスの奴ら」

「うそ!? こんなネクタイの結び方見たことないよ?」

「でしょ。でもね、それみんな〇〇ノットって正式な名前がある結び方なんだってさ」

「へぇー」


写真の中の男の子たちのネクタイは、結び目がクロスしていたり、隠れていたり、とにかく見たこともない結び方ばかりだった。

さすがに、酔っ払いのオジサンみたく頭に巻いてる人とかはいなかったけど。


「校則ではネクタイの結び方に規定はないというのが僕らの専らの主張ってこと」

「そういう抵抗の仕方ってことだね」

「まあね」

「諒くんは主張しないの?」

「朝は家事に追われて遊ぶ暇ないから」

「なるほど……」

「いろんな結び方ができるのはいいなと思ってるよ。楽しいし」


クールビズを持ち出したり、保護者を巻き込んだりすれば、校則もどうにかなりそうって思うけど。

わざとそうしないで楽しんでるんだよね、きっと。


「でも、さすがに怒られない?」

「ぜんぜん。まあ、苦笑いされるくらい? もうこれも伝統みたいなもんなんだってさ」

「そうなんだ」

「学期の始めや終わりの日には、東雲駅の周辺にヘンなネクタイした男子高校生がうようよしてるという。風物詩みたいなものらしいよ」

「ちょっと楽しそう」

「うん。そういうバカバカしいところ、うちの学校のいいところかなって思うよ」


(男子校の男の子たちって無邪気だなぁ)


彼が共学でなく男子校でよかったと、私はつくづく思った。

とりあえず、本人にそれを言うのはよしておいたけど。

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