優等生の恋愛事情
文化祭(桜野編)
◆部室と眼鏡と制服と
“ようこそ!桜野祭へ!”
今日は桜野高校の文化祭1日目。
「やべー、完全に世界違うし」
「アウェイ感半端ねえ……」
「あのアーチくぐるときに“ブブーッ!”とか鳴って門前払いとかあるんじゃね!?」
(いや、そんなの絶対ないだろ……)
入口を目の前に立ち尽くしているのは学校の友達連中。
ロクちゃん以外は僕と同じ美術工芸部の奴らだ。
ちなみに、決して誘い合わせて来たわけじゃない(誰がこんな大所帯で……)。
ざっくり言うと、僕とロクちゃんが桜野祭へ行くというのを聞きつけて、奴らが勝手にくっついて来たって話。
(まあ、僕も圧倒される気持ちはわかるけど)
キレイでお洒落な校舎に、華やかな雰囲気。
爽やか男子と可愛い女子がフツーに仲良く会話している桜野生。
確かに、ウチの学校とは別世界だ。
(そりゃあ気後れするよなぁ)
でも、ロクちゃんだけは余裕らしい。
「おまえら、つまんねえこと言ってると置いてくぞ」
「ロク、オレらを見捨てないでくれっ」
「へいへい」
漢前(おとこまえ)なロクちゃんから離れないように、きょろきょろぞろぞろ続いて歩く。
土曜の午前中に普通に授業がある僕らは、学校帰りに制服のままここへ来た。
正直、他校の文化祭で東雲の制服が吉と出るか凶と出るかは、けっこう微妙だ。
「オレら東雲の陰キャ集団とか思われてる?」
「滲み出るオタク臭……」
「こらー、自虐はそのくらいにしとけー」
「体育会系のロクにオレらの気持ちはわかるまい!」
「おう。わからんな」
「くそー!この勝ち組めぇ!」
東雲はまるっきりモテないわけじゃない。
でも、だいたいモテるのは運動部に入ってる奴と相場が決まってる。
逆に、文化部はマニアックすぎてドン引かれるのがお決まりのパターンだとか。
まれに、オタクな趣味が絶妙に合致して意気投合してうまくいく奴もいるらしいけど。
そういうのってたくさんあるわけじゃないみたい。
だから、彼女がいる僕は相当幸せな奴ってこと。
(学校での聡美さんかぁ)
学校すごく楽しいらしいし。
友達たくさんいるみたいだし。
たぶん、中学のときとは感じが違うんだろうな。
校舎へ入ると空調がものすごく効いていて、まずはその快適さに驚いた。
そして、さらに僕を驚かせたのが――。
「諒くーん!あ、六川君!?」
(聡美さんっ!?)
「あれって……三谷の彼女か!?」
「夏祭のときのあのコか!?」
「っていうか――」
野郎どもの視線は僕の彼女に釘付けだ。
それはそうだろう。
何しろ、僕を見つけて嬉しそうに駆け寄る彼女は――。
「溝口さんて、ああいうキャラだっけか?」
「僕の彼女、真面目で仕事熱心だから」
「なるほどな」
「ロクちゃん笑いすぎだよ」
「すまん。けどよ、つい……」
黒の猫耳に、ロングスカートのメイド服、さらに今日は眼鏡という。
しかも――。
「うわぁあっ!」
「だ、大丈夫???」
「ごめん。私、何にもないとこで躓くとかもうっ……」
ドジっ子のおまけつきときたもんだ……。