優等生の恋愛事情
「すっごい可愛く撮れてるよ」
「恥ずかしすぎる……」
「いいじゃない、可愛いんだから」
「もうっ……。あ、せっかくだから一緒に撮ろ? それなら私ぜんぜん嫌じゃないもん」
(何この可愛い台詞!?男でもキュンとするよ!)
顔も仕草も可愛いなら、言うことまで可愛いって、もうどんだけ可愛いんだよ。
そんなこんなで、猫耳メイドさんの思い出(?)をしっかり写真におさめると、僕は部室の外で待ってるようにと命じられた。
「私、ちゃちゃっと着替えちゃうね」
「うん」
「あ、これ持ってて」
「うん?」
渡されたのは、碁盤と碁石のセット。
「これ持って立ってれば他校の制服でも怪しまれないから大丈夫(のはず)だから。それ、13路盤だからたいして重くないし」
13路盤って、確か初心者向けの小さめの碁盤だったっけ?
しかし、これが“部活繋がりの人”を装う作戦なんだろうか???
いささか安直な気もしなくはないが、彼女にそれを指摘するのはよしておこう……。
彼女を待っている間、僕は不思議な気持ちで窓の外を眺めていた。
(僕が桜野に来てたら、どうなっていたんだろう?)
考えても仕方のないこと、それはわかってる。
今の自分の学校を気に入ってもいるし。
それでも、彼女と毎日同じ学校で過ごせたらと、なんとなく思ってしまう瞬間もあるんだ。
「諒くん」
振り返ると、すっかり制服に着替えた彼女が、部室のドア口に立っていた。
なんだろう? 今はもう見慣れたはずの制服姿なのに、今日はなんだか違って見えた。
「あ。これ、返さなきゃだね」
「うん。ありがとう」
(あれ???)
僕はてっきり彼女が碁盤を受け取って戻してくれるとばかり思ったのに、そうじゃなかった。
なんとなく促されるまま、碁盤と碁石を持って部室に入る僕。
すると、彼女は静かにドアを閉め、ゆっくりと僕に歩み寄った。
「諒くん」
おずおずと僕を見上げる彼女の瞳は、切ない熱を帯びていて、僕は瞬時に心をつかまれた。
(そうか、眼鏡なんだよなぁ)
眼鏡をかけてきたのは猫耳メイドさんのお仕事のせい?(設定上の都合とか?)
いやまあ、そんなことはどうでもいいんだ。
たぶん、彼女の心の中は僕とおんなじだと思う。
「ええとね、“千載一遇”の機会って、今みたいなときのことなのかなって、思って……」
(聡美さん、照れ屋なのに頑張ってる)
言葉を選びながら切々と一生懸命に話す彼女が、可愛くて仕方がない。
だったら、可愛いのなら意地悪しないで助け舟を出してやればいいのに。
なのに――。
“みなまで言わせる気かよ!”という僕。
彼女に“お願い”されてみたい僕。
二人の僕のせめぎ合い。
でも、勝負はあっけなくついた。
「諒くんは……どう、思う?」
眼鏡の奥のきれいな瞳が、可愛らしく微かに揺れる。
(どう思うも何も……)