優等生の恋愛事情
諒くんとふたりでまわる文化祭は、楽しくて嬉しくて、やっぱりちょっと不思議だった。
違う学校の制服を着ているのに、今だけは同じ学校にいて、普通に仲良く一緒にいる。
(本当、つかの間の夢みたい……)
一緒に美味しいものを食べて。
赤羽君のクラスのお化け屋敷も行って。
途中で、澤君と真綾さんに会って「キャー!」って喜んだり。
手をつないでいる高崎君と岩本さんにばったり会って、お互いに「いやはやなんとも……」みたいになったり。
そうして、ちょうど一通り見て回れたかなというときだった。
「あ、ロクちゃんからだ」
諒くんのところへ六川君から《合流できそう?》とメッセージが来た。
合流場所の学食へ行くと、六川君は一人でスマホをいじりながら待っていた。
「二橋らはどうしたの?」
「あいつら、漫研の女の子たちと意気投合したみたいでさ。今ごろ楽しく“ご歓談中”だと思うぜ」
私からすると、六川君は相変わらずって感じだった。
でも、六川君の私への印象はずいぶん変わっていたみたい。
「溝口さん、なんか可愛くなった?」
「ええっ……!?」
「ロクちゃん!!」
「いやさ、ほら、雰囲気ずいぶん変わったなぁと思って。中学んときは、話しかけんなオーラとかビシビシ出てただろ?」
「だから!ロクちゃん!」
「あはは、確かにね……」
ガウガウと噛みつきそうになってる諒くんを「まあまあ」と宥めつつ、苦笑いをする私。
だって本当、話しかけんなオーラを出してたのは事実だし。
「あ、そうだ。私、何か奢るよ。ふたりとも、せっかく来てくれたお礼に。何がいい?」
正直、私自身はかなりお腹いっぱいだったけど。
すると、それはふたりも同じだったらしい。
「俺、普通にお茶でいいわ。あったかいやつ」
「僕もかな」
「了解。そしたら、ちょっと待っ――」
「ああっ!三谷じゃん!ってか……六川!?」
(ハルピン!?)
振り返ると、両手にレジ袋を持って、いかにも「おつかいの途中です」という様子のハルピンが立っていた。
(って、ハルピンと六川君が知り合い???)
ふたりが同じ予備校の夏講で知り合っていたなんて、本当に初耳だった。
「もう、私ぜんぜん聞いてないよ?」
「そりゃあ言ってないもん。東雲の人けっこう来てたし。まさか、たまたま友達になった六川が、親友の彼氏の友達だとか考えないじゃん」
「“池っち”と溝口さんが友達だったとはなぁ。すっげー意外だわ」
(池っち……)
「六川、あんたねぇ。ひと様の友情にケチつけてんじゃないわよ」
「いやいや、ケチなんてつけてねえし?」
「来週、あたしらも東雲祭行くから。そしたら奢りなさいよ」
「へいへい」
「んじゃ私行くわ。買い出しの帰りだからさ。三谷は溝口とごゆっくり~」
ハルピンはニヤリと意味深に笑うと、さっさとクラスに戻って行った。
すると――。
「あ、LINE。ん? 八代から???」
一人去って、また一人……みたいな???