優等生の恋愛事情
私、いつも大事にしてもらってる。

本当に、いつも、とても……。


「あいつ、すげーいい奴だろ?」

「うん」

「天然だけど」

「うん」

「意外と嫉妬深いし」

「ええっ」

「悪ぃ、今のは忘れて……」

「う、うん」

「まあなんだ。俺なんかが言うのもあれだけどさ――」

「うん?」

「よろしく頼むよ、俺の親友のこと」


六川君は照れるでもなく、あどけない少年のようにニシャリと笑った。

そうして、私が泣きそうになっていると、さらりと別の話題を振ってきた。


「そういやさ、諒が弓道やめて今は文化部にいるって知ってる?」

「うん、それは」

「まあうちの弓道部はガチだから。しっかし、なんであいつ“連合”なんかに入ったんかなぁ」

「連合???」


(何それ? 初めて聞くんだけど?)


「あれ? 聞いてねえの? 文化部連合、通称“オタク連合”ってやつ」


(オタク連合……なんか、ものすごくウェットな響き)


「えーと、それって美術工芸部じゃないの?」

「そうとも言うか、確か」

「じゃあ、連合って……」

「文化部の中でも部員が減って存続の危機に陥った部が集まって一つの部として存続した、ってのが経緯らしいけど」

「あ、それは聞いた気がする」

「美術、書道、工芸、手芸……あとは写真とか、そのへんが合体した感じかなあ」

「それがなんでオタク???」


どの部も、うちの学校ではフツーの部活だけど。


「どういうわけか濃ゆーいキャラばっか集まっちまって、すげーことやってるからさ」

「すげーこと???」

「独学で研究して春画を描く奴とか」

「春画……」

「居もしない彼女のためにブラジャー縫う奴とか」

「エア彼女……」

「彫刻で理想の女体を追求する奴とか」

「理想の女体……」

「なんつうの? 地味に元気な陰キャ集団ってわけ。けっこうすげーだろ?」

「うん。で、諒くんもその一員ってことね」

「まあ、構成員の一人だあな」

「なるほど」


諒くん、だから部活のことあまり話したがらなかったのかな?

話したら私がドン引きするとか思ったのかな?


(別に、ぜんぜん平気なのになぁ)


「って、溝口さんマジでぜんぜん知らなかった? これ、言っちゃダメなやつだった?」

「いや、いいよ。大丈夫だから、うん」

「あいつのこと見捨てないでやってよ」

「諒くん、文化祭は折り紙とレゴで参加するって言ってたけど」

「じゃあ、折り紙ブラジャーと、女体レゴか……」

「六川くん!」

「冗談冗談」


六川君は愉快そうにガハハと笑った。


「ふたりとも、何話してるの?」

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