優等生の恋愛事情
文化祭(東雲編)

◇自慢の彼女

今日は東雲高校の文化祭1日目。

「やっぱり今日って、私らみたいに学校帰りに文化祭へ行く人とか多いんかね?」

東雲駅へ向かう電車の中、なんとなく周りを見回しながらハルピンが言う。

「どうかな? あ、でも、公立って土曜は学校ないんじゃない? あれ? あるんだっけ?」

自分で言いながら思わず「はてな?」と首を傾げる。

私たちの学校は土曜日も午前中だけ授業がある(私立の進学校あるある?)。

「池ちゃんも溝ちゃんも、学校なくても文化祭行くときは制服でしょお?」

瀬野ちゃんは“女子高生たる者、他校の文化祭は制服で行くべし”と豪語する。

けどまあ、ハルピンと私はそんなポリシーはなくて、ただ単に学校帰りなだけなのだけど。

それにしても――。

(瀬野ちゃん、気合入ってるなぁ)

スマホを鏡がわりにして、前髪や目元のチェックに余念がない瀬野ちゃん。

「ああもう、緊張するぅ!だってきっと、優クンのお友達とか先輩に絶対会うじゃない?」

いつも可愛くしている瀬野ちゃんだけど、今日はいっそう完璧な感じ。

私はなんとなく夏祭りのときのことを思い出した。

よくできた奥さんみたいに「カレがお世話になっています♪」と挨拶していたよね。

「ねえ、溝ちゃんも緊張するでしょお?」

「私!? えーと……」

瀬野ちゃんは「そうそう!」って共感して欲しいのだろう。

でも、私は正直そうでもなかった(今のところは、だけど)。

だって、諒くんとは今日のことを、あらかじめ少し話していたから――。

それは水曜日のことで、いつものように桜野駅周辺で放課後デートをしているときだった。

「準備が大詰めでさ。もう本番当日まで会えそうにないんだ」

「時間ないもんね」

うちの学校もかなりタイトなスケジュールで準備をしたのでよくわかる。

「それと――」

「ん?」

彼は申し訳なさそうに言った。

「文化祭に来てと言っておいてなんだけど、嫌な思いをさせてしまうかも……」

「嫌な思い???」

「そう。冷やかされたりとか、そういうの」

そういえば、六川君が“男子校のノリ”とか言ってたっけ。

私とふたりでまわったりしたら、諒くんは冷やかされて嫌な思いをしてしまうのかな?

「私、諒くんが嫌な思いをするのは嫌だな。だったら友達と見てまわるよ?」

「いや、僕は何言われても気にしないよ」

彼は涼しい顔でさらりと言った。

「だいたいさ、ただのやっかみなんだよ」

「やっかみ?」

「そっ。彼女いるだけで幸せなんだから、何言われてもガードなしでフルボッコされやがれ!みたいな。うちの学校ってそういう文化があるんだよねぇ」

六川君に「溝口さんのは桜野の常識」って私の感覚を否定されたけど。

確かに、うちの学校の雰囲気とは違うかも。

「どうせね、言う奴は何してても難癖つけるんだよ」

諒くんは半ば呆れたように苦笑いした。

「彼女と手をつないで歩いていたら“見せつけやがって!”とか言われて、つないでなきゃないで“意気地なしのチキン野郎!”とか言われるわけ」

「うーん。男子校って……」

「けどほら、僕って気にしないタイプだし。でも、聡美さんが不愉快な思いをするのは絶対に嫌だから」

(諒くん……)

彼のそういうマイペースさを、とてもいいなって思う。

決して協調性がないわけじゃないけど、“自分は自分”。

六川君も言っていたけど、周りの目を無駄に気にしたりしない感じ。

私も、そんなふうに彼の隣にいたいな。

「じゃあ、諒くんは私とふたりでまわるのもアリでいいの?」

「もちろん」

「そしたら、“見せつけやがって!”と“チキン野郎”だったらどっちがいい?」

「前者で。聡美さんさえよければ」

諒くんは愉快そうに爽やかに笑った。

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