優等生の恋愛事情
私たちが通う“桜野(さくらの)高等学校”は私立の共学校で男女比は半々くらい。

生徒のほぼ全員が4年制大学を目指す進学校で、予備校に行かなくても大学入試に対応できるカリキュラムになっている。

それでも、
予備校に行きたがる人が一定数いる。


「うちのクラスって男女で仲いいけど、それはそれって感じだもんね」

「付き合うのは他校の人っていうね、うん。共学だから出会いに困らないってのはウチの学校には当てはまんないわ」


他の学校のことは知らないけど、
ウチの学校ってどういうわけか校内でカップルになる人が少なめらしい。

男子は女子高のコと付き合っている人が多くて、女子は男子高か他の共学の人か。
クラスは仲良しで雰囲気もいいのだけど。


「だからさ、溝口も出会いを探しに行こうよ~。夏なんだからさ。ねっ?」

「いや、私はいいから」

「つまんないなぁ。じゃあ、夏休み何してんの? まさか!私に内緒でイイとこ遊びに行って出会いを……」

「ないから。お祖父ちゃんち行って鯉にエサやって、スイカ食べて、お土産にトウモロコシもらってくるだけだよ」

「ごめん。聞いた私がいけなかった……」

「ちょっと!私は可哀そうじゃないからね!」

「だってあんた、小学生の夏休みじゃないんだから。てか、小学生のが派手かも?」

「ほっといてよ」

「他には? 何か予定ないの? 無いんだったら、やっぱり私と一緒に夏講に!」

「だーかーらー」


懲りずにぐいぐい迫ってくるハルピン。

「一緒に」と誘ってくれるのは嬉しい。本当に嬉しい。

だって、中学のときなんて、夏休みにどこかへ誘ってくれる友達なんていなかったから、って――。


「ああっ」

「ん? なになに? 何かあんの?」


思い出してしまった。昨日飛び込んできた面倒な用事のことを……。


「ねえねえ、何なの? 何なの?」

「あー、うーん。それがね……」


ため息交じりに話し始めたそのときだった。


「溝ちゃーん。お客さーん。話あんだってー」


ちょうど入口近くの席の阿部君が、大きな声で私を呼んだ。


(ちょっ……阿部君、声大きすぎだよっ)


居心地悪そうに戸口のかげに立っているのはF組の高崎君だった。

へんに冷やかされたとかじゃない。でも、注目されるのは恥ずかしい。


(こういうときって、瞬間的にだけど教室がちょっとおかしな空気になるんだもん……)


「同じ中学の人だっけ?」

「そう。えーと、ちょっと行ってくるね」


私はハルピンに曖昧に微笑んで席を立った。

高崎君の用件はわかっている。
わかっているから行きたくない。
けど、無視するわけにも行かないし。


(私に選択権なんてないじゃない……)


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