優等生の恋愛事情
中学時代の岩本さんは、静かな感じで目立つタイプではなかった気がする。

でも、このまえ偶然見かけたとき、イメージがずいぶん変わっていて驚いたっけ。

もともとキレイな人だったと思うけど、なんかすっごく可愛くなっていて衝撃的だった。


「頼むよ~。このとおり!ねっ!」


で、高崎君はその岩本さんを狙っていると。


「私に言われても困るよ」

「えーっ、だって仲良かったじゃん!」

「それはまあ、悪くはなかったと思うけど」


(高崎君て、女子の人間関係をまるでわかってなかったんだろうな)


「給食とか一緒に食べてたじゃん!」

「よく覚えてるね……」


(そういうのは中途半端に印象に残っているわけだ。実際はちょっと違ったんだけど……)


岩本さんたちは穏やかで大人しい感じのグループだったから。

私は、そこへ“入れてもらっていただけ”だもの。


「私、高校入ってから連絡とか取ってないし」

「だったら、“久しぶりに会いたいの”とか、“一人じゃ心細いから一緒に来て”とか言ってさ。ね?」

「私はクラス会なんて興味ないんですけど」


(なのに、どうしてそんな小芝居うたなきゃいけないわけ?)


「わかってます、わかってますとも。そこをなんとか頼むよ!ねっ!」

「だから、頼まれても困ります」

「だって、溝口さんしか頼める人いないじゃん。本当にほんとうにこのとおり!」


手を合わせて必死に頼み込む高崎君。
こういうのを、“懇願”って言うんだっけ?
いや、“哀願”か???


(これじゃあ私が意地悪してるみたいじゃない)


私なんかに縋るその様子が、情けないやら哀れやら。

だって、誰も見ていないのをいいことに土下座も辞さない勢いなんだもの。


(なんかもう疲れたかも……)


「わかったよ」


拝み倒されて抵抗するのを諦めた。だって、「うん」というまで話は終わらない気がして。「絶対に嫌」と断っても、明日また懲りずにやって来そうで。


「マジで!? やった!感謝だよ~!」

「確約はできないよ。声はかけてみるけど」

「いやいや、絶対来るって!」


(その自信はどっから来るんだか……)

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