優等生の恋愛事情
三谷くんに言わなきゃいけないことがあるのに。

伝えたいことがあるのに。
聞いて、欲しいのに……。


(私の意気地なし……!)


それからも話を切り出せないまま。私は三谷くんと他愛ない話をしながら歩き続けた。


「そういえば。僕、丸川さんを見かけたよ」

「どこで?」

「ウチの学校の最寄り駅のそばにある音楽教室と楽器店が一緒になったとこ」

「そっかぁ。なんか久しぶりに名前聞いたよ」

音大の付属高校に合格したのは知っていたけど。クラス会には当然来ていなかったっけ。


「僕、丸川さんには煮え湯を飲まされたというか」

「あ、合唱コンクールのとき?」

「そう。急に伴奏できないって言い出して、僕がかわることになって」

「大変だったよね。練習期間短かったし」

「本当に余裕なくて辛くてさ」

「三谷くん、ぜんぜん指揮見てなかったもんね」

「必死だったんだよ、ただ弾くだけで」


今はもう懐かしい思い出、か。


(ダメだ。丸川さんの話とかしている場合じゃないのに!ちゃんと言わなきゃなのに!)

  
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