優等生の恋愛事情
図書館といっても、ここは児童館や公民館が一緒になった複合施設になっている。


「学習室じゃないほうがいいんだっけ? 僕はどっちでも大丈夫だけど」

「うん。わからないとことか教えて欲しいし。学習室だと私語厳禁だから」


広々とした多目的スペースには十分な席が用意されていて、お喋りも飲食も自由にできる。

私たちは隅っこのほうに四人掛けの席を見つけて落ち着いた。


「三谷くんは宿題終わってるんだっけ?」

「ほぼほぼ。溝口さんは?」

「数学がちょっと残ってる感じ」

「そっか。僕は書道が残ってるかな」

「芸術選択の? 宿題なんてあるの?」

「まさかでしょ? 本当、小学生かよ!って」


テーブルを挟んで向かい合わせ。

とりとめのない話をしながら、それぞれに勉強道具を並べていく。


(三谷くんとこういうのって久々だな)


放課後の教室。前後の席をくっつけて向かい合って作業をしたのを思い出す。

プリントを仕分けしたり、ホチキスどめしたり、そういう面倒な頼まれ仕事。

でも、今はもうあの頃とは違う。


「僕、とりあえず今日やる分が終わったら本を見に行きたいんだけどいい?」

「うん。私も何か借りていきたい」

「じゃあ、頑張って早く終わらせよう」

「なんかやる気出てきた!」

「僕も」


私たちはもうクラス委員でもなければ、面倒な仕事をおしつけられているわけでもない。

会いたいからここへ来て、一緒にいたいからここにいるんだ。


(私も三谷くんみたいに早く宿題片付けよう!それで、残りの夏休みをぜーんぶ楽しいことに使うんだ!)


とにかくまずは、今やるべき課題をしっかりと頑張ること!

そう思ってる、思ってたはずなのに――。


(ど、どうしよう。集中できない……)

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