優等生の恋愛事情
三谷くんは真面目に化学の予習をしているのに、私は――彼のほうを見てばかり。


目を伏せた感じとか。

長い睫毛とか。

頬杖をつきながら教科書を読み耽る表情に、ドキドキしたり、うっとりしたり。

三谷くんの手は華奢だけれど大きくて。

無意識にペンを弄ぶ長い指がとてもきれいで。

その仕草に思わずほわーんと見惚れたり。


(どうしよう、目が離せないよ)


ドキドキする感じは、胸がきゅうっと苦しくて。

だけどやっぱり、じんわり甘く幸せで。


(こんな気持ちって……)


中学生の頃はどうして平気でいられたんだろう? 


(今はもう平常心がわからないよ)


「どうかした?」

「えっ」


顔を上げて不思議そうに首を傾げる三谷くん。

私は思い切り動揺した。


(どうかしたも何も……っ)


だって、「勉強サボってずっとあなたを見てただけですけど何か?」なんて言えるわけないし……。

まさか、本当は三谷くん気づいてた? 

気づいてて私の視線が痛かった??

あんなにガン見されて気づかないわけがないって???

っていうかもう、視線が痛いとかじゃなくて私が痛い奴って話なんだけど。

  
「あ、あのっ」

「数学、聞きたいとこがあるとか?」

「へ?」

「教えて欲しいとこあるって言ってたなあと思って」

「そ、そう!そうなの!」


(本当は因数分解のことなんて忘れてたけど……)


「ひょっとして話しかけづらかった?」

「え?」

「いやさ、集中してて“話しかけんなオーラ”とか出てたら悪いなって思って」

「大丈夫。そんなことないよっ」


(むしろ、私の痛い視線にも気づかないくらいの集中力に感謝です……)


「ならよかったけど」

「う、うん」

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