優等生の恋愛事情
男の子――好きな男の子と手をつないでいる自分なんて、想像したこともなかった。


「大丈夫? 疲れてない?」

「え?」

「いやさ、溝口さんは自分の勉強に僕を付き合わせてしまったみたいに言ってたけど。実際は、付き合わせていたのは僕のほうかなって」

「なんで? そんなことないよ?」

「僕、のめりこみすぎて悪かったかなって」

「のめりこむ?」

「うん。溝口さん、真面目で一生懸命だから。教えがいがあるっていうか。僕もおもしろくなってきちゃって。もう少し、あれもこれもって、無理させてしまったかなぁと……反省」


きまり悪そうに微笑む三谷くん。

その横顔にきゅんと胸がときめいた。


「大丈夫だよ。私、疲れてないよ?」


そりゃあ、心の中は大忙しだったりしたけど。

今だって、相変わらず忙しいことは忙しいし……。

それでも、嬉しかったし、楽しかったから。


「宿題すごいはかどって助かっちゃった。一人だったらこんなに進められなかったもん」

「ずいぶん頑張ったもんね、溝口さん」

「三谷くんの教え方が上手だからだよ」


嬉しさいっぱいで見上げると、三谷くんも優しい笑顔を返してくれた。

彼と私の身長差って、正確にはどれくらいあるんだろう?

こんなふうに並んで歩いて話していると、自然と、彼が私を見下ろして、私が彼を見上げる格好になる。

当たり前といえば当たり前。

彼の背が高いから。それだけのこと。

でも、やっぱり意識せずにいられない。

だって例えば、ハルピンは165、6センチくらいあって、女の子では長身のほうだと思うけど、決して見上げるようなことはないもの。

肩や目線の高さも、腕の逞しさも、声の低さも――三谷くんが、男の子だから。


「それにしてもさ、やっぱり今日は勉強しすぎた気がするよ」


苦笑いする三谷くんに、つられるように私も笑う。


「三谷くん、なんかすごいこと言ってる」

「うん?」

「だって、遊びすぎたとか、寝すぎたとか、そういうならともかく。勉強しすぎたーなんて、あまり出てこなくない?」

「そうかな?」


きょとんとする三谷くんが、可愛くっておもしろい。


「そうだよ。あんまりないよ」

「でも、本当かなり頑張った気がするよ?」

「それは私も思うよ。うん」

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