優等生の恋愛事情
ロクちゃんに叱られる四条を完全無視して、僕はぐるぐると考えていた。

(僕はどうしてわからなかったんだろう?)

あの頃はこんなにも特別だなんて気づきもしなかったんだ。

一緒にすごす時間も、信頼も、何もかもが当たり前で。


“3年1組33番 溝口聡美”


なぜだか急に彼女の文字を思い出した。小さくキレイにまとまった見やすい文字。

見ればすぐに彼女のそれとわかるほど、僕はその字を見慣れていた。

僕らはそれほどの時間を同じ机を並べて過ごしていたんだ。


「まあ、可能性は十分ってことだよ。ただし、溝口さんが今もフリーなら、だけどな」


ロクちゃんが愉快そうにわははと笑う。だけど、僕は笑えない。


「それを言ってくれるなよ……」


僕だってわかってる。こういうことにはタイミングがあるってこと。

わかってるけど、わかりたくない。


「ねえねえ、その溝口さんて学校はどこなのさ? 女子高? 共学?」


おもしろがって首をつっこんできた四条に、ロクちゃんがまたまた丁寧に答えるからもう……。


「共学。せめて女子高だったら期待膨らみそうだけどな。しかも桜野だぜ? なあ?」

「んま!桜野って素敵女子がいっぱいと噂の!イケてる男子も多いと評判の!あら~」

「校外に出会いを求めて遠征する必要なしだもんな。毎日がウハウハだな」

「なんだよ、ロクちゃんも四条も他人(ひと)事だと思って」

「だって、他人事だろ」

「そうそう。他人事だもーん」


(まったく、この二人は……)

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