北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
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 1日のやるべきことを終えマットレスに寝そべるまでの、北向き納戸での自由時間。
 いつもなら職探しサイトで新着情報をチェックしているけど、今夜スクロールしているのは賃貸情報だ。
 優先順位1位は家賃を含む初期費用。次は、通勤に交通費がかからないように、小野里邸から徒歩圏内であること。あとはエアコンがあること。広さだの日当たりだの築年数だのは、この際問わない。
 仕事探しとちがって、条件に合うものはそこそこ見つかった。でもありすぎて逆に決め手がない。お気に入りのストックだけが増えてゆく。
 つまりは、この家より好みの物件なんて、ほかにない。
 マットレスの上に乗ったまま膝をかかえて、凛乃はナナメの天井を見上げた。
 いい案だと思ったのにな。断られちゃった。
 売らないにしても、理由がいまいち納得できない。金額にこだわってるわけじゃないし、この家が惜しくなったわけでもないらしい。
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