北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「では」
 思いのほか長く漂う金属音の余韻をまとって、凛乃は上半身だけこちらを向いて頭を下げて出ていった。
 だれもいなくなったあとの座布団には、凛乃の伸びた背筋とうなじの傾きそのままに、色の残像が漂う。
 離れたところからだと真っ黒に見えた、黒地にピンストライプのスーツ。黄味がかった古臭いベージュのストッキング、真っ白なシャツブラウス。
 三毛猫の配色と同じだ。
 思わず口の端がほころんだ。
 玄関のドアが開いて閉まる音を聞いて、累はふらりと立ちあがった。
 引き留めたい。どうしても。
 何年かぶりに、瞬発力だけで駆けだした。
「あの……なにか?」
 いぶかしげな声に、累は我に返った。
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