北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 凛乃はバッグを盾のように抱えこんでいる。警戒している。挙動を誤れば、すぐに逃げ出してしまう。こういうときは、警戒心を上回るなにかを提供するしかない。
「住み込み、してくれない?」
 惹きつけられたのを凛乃の目から読み取って、累は急いで言葉を探る。
「相場の給料は、払えない。けど……納戸にマットレスが一つある。スプリングがからまってるけど寝れないことはない。食費も光熱費もおれが持つ。食べ物と寝るところがあれば、もっと条件のいい住み込みの仕事もじっくり探せると思う」
 返す凛乃の声は震えていた。
「そ、それって、そちらに住みながらほかの仕事してもいいってことですか?」
「うん」
「どうしてそこまで」
「この家、近いうちに売るつもりで」
 小野里邸をふりあおぐ。
 ゆるいカーブを描くポーチの垂れ壁、青い屋根。大きくはないけど、ひとりで住むには広すぎる家。
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