北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「……合理的ですね。でもうちも、そういえば仏壇には写真、ないです。遺影を鴨居に置いてるけど、記憶の中のじいちゃんとは少し違うんですよね。紋付なんか着てるとこ見たことないから。あ」
思わず世間話をしてしまった。
「えっと、採用条件の話でしたよね」
「じいちゃんは、いつ?」
プルタブを開けながら、累が訊く。
「……けっこう前ですよ。10年ほど経ちます。そのときはもうわたし、実家を離れてたし、特に信心深くもないんで、お墓より仏壇のほうが手軽に話しかけられるというか、じいちゃんはそこにいるもんだと思って、帰省のたびに近況報告とか愚痴とか抱負とか語ってます。祖母は健在ですけど、あ、わたし、とめ子さんがどんなひとなのか、シミュレーションしてたんです」
しなければならない話から逃げるように、凛乃は訊かれてないことまで話す。
「マッサージは得意だからアピール必須だなとか、通院とかされてたら付き添い行こうとか、離れたところにお孫さんがいるならメールとかスカイプのやりかたを教えようとか。お顔知らないから、うちのばあちゃんを代役にして、あーだこーだと。だからなんとなく、とめ子さんを知ってる気になってるのかも」
思わず世間話をしてしまった。
「えっと、採用条件の話でしたよね」
「じいちゃんは、いつ?」
プルタブを開けながら、累が訊く。
「……けっこう前ですよ。10年ほど経ちます。そのときはもうわたし、実家を離れてたし、特に信心深くもないんで、お墓より仏壇のほうが手軽に話しかけられるというか、じいちゃんはそこにいるもんだと思って、帰省のたびに近況報告とか愚痴とか抱負とか語ってます。祖母は健在ですけど、あ、わたし、とめ子さんがどんなひとなのか、シミュレーションしてたんです」
しなければならない話から逃げるように、凛乃は訊かれてないことまで話す。
「マッサージは得意だからアピール必須だなとか、通院とかされてたら付き添い行こうとか、離れたところにお孫さんがいるならメールとかスカイプのやりかたを教えようとか。お顔知らないから、うちのばあちゃんを代役にして、あーだこーだと。だからなんとなく、とめ子さんを知ってる気になってるのかも」