北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 累が警戒しながら尋ねた。
「小野里さんがお考えの条件と、こちらが提示する条件を、できるかぎり擦り合わせてみましょう」
 累はこくりとうなずく。
 凛乃はペンを手に、手帳の空白ページを開いた。
「まず、ご予算を教えてください。日給ではいかほどをお考えでした?」
「6千円」
 5時間で割れば、1200円。通いで初心者の家政婦なら、まぁありえなくもない。それが週3日×4で72000円。あからさまな数字が、白いページを埋める。
「月7万ちょっとを想定されてたわけですよね」
 こくり。
 この給料じゃ、部屋を借りて生活するのは無理だ。だから住み込み、というところに話が戻る。
「個人的な見解では、家賃と光熱費と食費がかからないんなら、月7万からでも貯金ができると思うんです。だから、家賃と食費と光熱費を天引きされているという体で、給与はそのまま、住み込みだけど24時間拘束ではない、という働き方はどうでしょう」
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