北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 軒下に設置された物干し竿に、割烹着とデニムとTシャツを干している。あわてて取り込んだそれを、縁側の天井につけられた物干しポールにかけなおす。
 のっそりと手伝いに来た累と長い縁側のガラス戸をぜんぶ閉め終えるころには、激しい雨脚で外の景色が霞むほどになっていた。なかば呆然と、凛乃と累は灰色がかった庭を眺めた。
「あーぁ、もう梅雨かぁ」
 割烹着もデニムも半乾きだった。天気予報では五分五分だったけど、この先しばらく晴れがないようだったから、ムリしてしまった。さすがにシングルベッド込みの3畳では、洗濯物を干す場所も限られる。累の目に触れてはならないモノ以外は、こうして縁側より先に出させてもらっている。
「でも、雨でも洗濯物を干す場所があるから、このおうち好きなんですよね。天気がよければ庭があって、どっちつかずの日はバルコニーの下に濡れ縁があるし、こんなに物干し完備ってなかなかないですよ」
「ばあちゃんがここを買ったあとで、濡れ縁を増設したんだって。歳とるにつれて、干し場が家の中に」
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