北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 遺品には執着しない累が、キャットタワーを捨てないのが不思議だった。その理由が、ようやく問える形で降ってきたらしい。
「それって、あのキャットタワーを使ってた子ですね」
「あれはその前の猫のために、ばあちゃんが買ったやつ」
 累は胸をひらくように両手をうしろについて、カミナリ雲渦巻く空をナナメに見あげた。凛乃は縁側の端にある物入れの扉に背中を預けて、ぺたりと座りこんだ。
 部屋同士を仕切る戸という戸を全開にしているから、リビング・縁側とつながって、和室はとても広く感じられる。そんななかで擦り上げ猫間障子越しに隣り合っていると、身を寄せあっているようなくすぐったさに陥る。
「つるこはタワーにぜんぜん乗らなかった。野良だったから、しるこの匂いが気にいらなかったみたいで」
「あんこの匂いって、猫は苦手なんですかね」
「……しるこは先代猫の名前」
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