北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「フランス語で雪。正式には、雪の玉って意味のブールドネージュってクッキーからとったらしい」
「あー、白いスイーツつながりってことですね」
「あとは、しるこがチビのころ、左耳のうしろだけ紫っぽいグレーだったのを、ばあちゃんは、白玉にかかった小豆の汁の色だって言ってた」
「それぜったい、とめ子さんお汁粉好きですよ」
 凛乃の笑い声が、ゴロゴロと絶え間なく響く雷鳴にまぎれた。
 たまにはこんなふうに、ゆっくり話す時間があってもいい。
 真夜中がワーキングタイムの累が1階に来るのは、朝食時と夕食時に限られている。トイレだって、ドアの開閉音はしても、姿は見かけない。起きてからもリビングでくつろぐこともなく、食べたあとはすぐ部屋にこもる。
 プライベートの話は仕事には必要ないけど、やっぱり話してくれれば打ち解けてもらえたと思える。信頼は、自信になる。
「維盛さんは、猫、好き?」
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