TanKa
「これで合ってるはずよ? なほあまりある、昔なりけり……ってね」
「なに……?」

2つの指の間に器用に札をはさみ、宇都木さんはそれをヒラヒラっとさせた。
何とも優雅な仕草に、少しいつもの大人しさを失わせつつも、僕はドキッと胸が高鳴るのを感じた。

タケチは……ドキッとするようでもなく、ただ負けたような悔しさに、唇をかみ締めていた。
「まだ……わかんねぇぞっ、おっちゃん、読んでくれ!」

諦めの悪いタケチを、ニヤッと勝ち誇ったような目で見る宇都木さん。
何か、百人一首をやってから、人格が変わったような……?

「なおあまりある、むかしなりけり……ホントだ。嬢ちゃん、すげぇな」
田中さんは、先ほどの一件を教訓にしたのか、今度は幾分、抑えたように読み上げた。
ただ、棒読みした、ともとれなくないが。

……宇都木さんは、スゴイ。
あれから、何度かタケチと対戦したが、全て勝ってしまった。
僕は、鈍いおじさんに数回勝ったのみで、戦績はふるわなかった。
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