明日は明日の恋をする
「…思い出した。水沢さんって、高瀬課長の彼女でしょ?」

思いがけない鈴里さんの言葉に私と高瀬さんは仕事の手を止め、驚いた表情で勢いよく鈴里さんの方を向く。私が高瀬さんの彼女だなんて何で思ったのだろう?

「ち、違います。私は高瀬…課長の彼女ではありません。」

私は首を横に振り思いっきり否定した。

「いや、そんな全力で否定しなくても…。確かに水沢さんは僕の彼女ではないですが、どうしてそう思うのですか?鈴里さん。」

高瀬さんは笑顔で鈴里さんに尋ねる。私もドキドキしながら鈴里さんの返答を待つ。

「お2人を見かけた事がありまして…。確か美術館が新しくオープンした時だったかしら。美術館の入り口付近で進藤社長とお話されてませんでした?」

美術館…美玲さんと初めてあったあの時か。確かに彼女の振りはしたけど、見られていたんだ。それにしても鈴里さんって記憶力がいいんだ。私の顔を覚えているなんて…。

「あ~あの時か…。鈴里さんも居たなら声をかけてくれたら良かったのに。」

「いえ、課長のデートを邪魔しちゃいけないと思いまして。」

笑顔で会話をしているが、2人とも思いっきりビジネススマイルだ。何だか見ている私がハラハラしてしまう。

「…そうだ。鈴里さん、仕事終わりに3人で飲みに行きませんか?奢りますよ。」

「今日は予定がありますのでお断りします。心配しなくても私は誰にもお2人の関係を話したりしませんよ。」

「あはは、一応口止め料払わして下さい。いつならOKですか?」

「…課長って意外と強引なんですね。金曜日の夜なら空いてますけど?」

「じゃあ金曜日の夜、仕事が終わってから3人で飲みに行きましょう。」

鈴里さんと約束をして、私と高瀬さんの関係を誤解されたまま話は終わった。
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