明日は明日の恋をする
夕方前くらいに、明日香ちゃんの引越しが終わったと鈴里さんからメールがきた。

これで明日香ちゃんは大丈夫。後は、俺の目の前にいるこの男…。

「ケイスケ、昨日寝れなかったのか？目の下にクマが出来てるぞ。」

仕事の合間に話しかける。すると書類に目を通すのをやめ、ハァッと全身の力が抜けるような息を吐き出しこっちを向いた。

「寝れるわけないだろう。」

「だろうな。でも明日香ちゃんだって前を向いて頑張ろうとしているんだし、お前も早く立ち直れよ。」

「分かってるさ。」

ケイスケは社長机から立ち上がり、来客用のソファーにどかっと座った。

「…なぁナオト。」

ソファーに座ったかと思えば、今度は何か思いつめた表情で話しかけてくる。珍しいと思いながら、俺も対面側のソファーに座った。

「何だよ？」

「聞いてもらいたい話がある。あくまでも現実を見て実現できる話か…見極めてほしい。」

ケイスケが俺に仕事以外で相談するなんて、一体どんな話だろうか。少し緊張気味に話を聞く。

話を聞き終わった後、想定外な話に俺は目を丸くした。社長室にしばらく沈黙と異様な空気が流れる。

「…ケイスケ、お前本気で言ってんのか？」

「あぁ、もちろん本気だ。だが…俺の思考が間違っているのは分かってる。分かってはいるが…。」

ケイスケは前髪をクシャッと手で掴み、辛そうな顔をする。人前でこんな弱みを見せるなんて、明日香ちゃんと別れたダメージは相当なものなんだろう。

この話をしたのも、間違った道に進もうとしている自分を俺に正しい方へ導いてもらいたいのかもしれない。

現実的に見てケイスケの考えている事は実現できるか失敗するか五分五分(ごぶごぶ)だと思う。だけど、俺はケイスケの考えを聞いて正直嬉しかった。

これは賭けだ。

そして俺はケイスケの考えを実現させる為に協力しようと思った。
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