明日は明日の恋をする
「会社に戻る途中なんだろう?」

車の窓を開けて進藤さんは顔で私に助手席に乗るように促す。

「そこまで甘えるわけには…。」

私は遠慮しようとしたが、笑みを浮かべる進藤さんを見ると何も言えず、結局助手席に乗った。

「会社までのナビを頼む。」

進藤さんは車を走らせた。

どうしよう…進藤さんの車には何度も乗っているのに、何でこんなに胸がドキドキするんだろう。やっぱりまだ私…。

「…今日は静かだな。まさか緊張してるのか?」

口数の少ない私に進藤さんが聞いてきた。

「…進藤さんは今まで通り素で話しかけてくれるんですね。」

「今更だろ?俺の素を知っているのにビジネス的な話し方しても気持ち悪いって思われそうだし。嫌なら話し方変えるが?」

「いえ嫌とかではなく、どちらかといえば嬉しいんだけど…。」

思わず嬉しいと本音が出てしまい、しまったと思いながら進藤さんの方をチラッと見て反応を見る。すると進藤さんは驚いているような表情で私の方を見ていた。

目が合うと2人とも慌ててパッと前を向いた。なんだかくすぐったい感じの雰囲気が車内に流れる。

そしてあっという間に私の勤務先付近に到着した。

「色々ありがとうございました。」

「あぁ、仕事頑張れよ。」

「はい。じゃあ…。」

私は車を降りペコっと頭を下げる。

危うく『またね』と言うところだった。これから先、私達に会う予定はないのに…。


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