明日は明日の恋をする
慰安旅行当日ーー

「それでは夜まで自由時間となります。食事の時間までには旅館に戻ってきて下さい。」

貴島さんがみんなに言うと、それぞれ部屋に荷物を置きに行く。今回宿泊する旅館は和の雰囲気が漂いゆっくりと落ち着ける空間が広がっている。食事も旬の素材を使用した懐石料理らしく、今から楽しみだ。

「この近くにロープウェイがあるんだって。みんなで頂上から紅葉(こうよう)を楽しもうよ。」

私と同じ部屋に泊まる営業補佐の女子達が、ガイドブックを見ながらはしゃいでいる。

「ほら、水沢ちゃんも行こう。」

「はい。」

みんなで部屋を出て旅館を出る。旅館の前には手のひらを空へ向け伸び〜っとしている貴島さんがいた。

「貴島君は今から何するの?」

一緒にいた女子の1人が貴島さんに話しかける。

「俺は温泉に入って後は部屋でのんびりしようかと。」

「せっかく旅行に来たんだから楽しまなくちゃ。私達と一緒に紅葉(こうよう)を見に行こうよ。…水沢ちゃんもいるし。」

「ちょっ…何言ってんですか!?」

貴島さん達は何やら小声で話している。

「じゃあ行かないの?」

「い、行きますよ。」

やり取りはよく分からなかったけど、貴島さんは近くにいた同じ営業部の男性社員達に声をかけて、みんなで一緒に行動することになった。

赤・黄・橙、色鮮やかな紅葉(こうよう)を眺めながら私達はロープウェイに乗って頂上を目指す。

頂上に到達すると、みんなそれぞれの場所から景色を楽しんでいる。私はみんなから少し離れた場所で1人で景色を眺めていた。

「凄く綺麗…。」

風でなびく髪を耳にかけながらゆっくり歩いていると、景色に夢中で周りが見えてなかったせいで人にぶつかってしまった。

「すみません。」

「いえ、こちらこそすみません。」

お互い謝り顔を見る。そしてお互い目を丸くして3秒ほど動きが止まり、ようやく頭が回転し始めた。

「…!?」

私は思わず指を指して声にならない声を出す。

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