明日は明日の恋をする
「水沢さんの事は私に任せて下さい。」

「進藤さん…っていったね。明日香ちゃんが貴方みたいな人と一緒なら私も安心できるわ。どうぞよろしくお願いします。」

大家さんの言葉が何だか嫁に行く娘を送り出すような言い方で、少し恥ずかしくもあり嬉しかった。

それからアパートの部屋に行ってみたが、持って帰れそうなものは何もなかった。私と進藤さんは大家さんに挨拶して、近くに停めてた車へと戻る。

「進藤さん、ありがとうございました。」

「礼を言われるような事は何もしてないが?」

車に戻ると無表情の進藤さんに戻った。本当にオンオフの切り替えが早い人だなとつくづく思う。私はアパートに連れて来てくれた事、大家さんを安心させてくれた事、感謝の気持ちでいっぱいだった。

「それにしても、お前は今日で幸運を使い切ったんじゃないか?」

「え?」

進藤さんはそう言うが、今日は不幸な事しかなかった気がする。義雄には振られるし、家は火事になるしで幸運なんてどこにもない。

「幸運なんてないですよ。」

「そうか?タチの悪い男と別れる事が出来たし、今より良い部屋に住む事も出来る。仕事も今までみたいにいくつも掛け持ちしないで済むし、良い事だらけじゃないか。」

私は進藤さんに言われてハッとなる。今日は人生最大の不幸な日と思い込んでいたが、言われると不幸ばかりじゃないなと思わされ思わず笑ってしまった。

「あはは、めっちゃポジティブな考え方だし。」

「ネガティブよりいいだろ。」

進藤さんは笑みを浮かべながらチラッと私の方を見る。この進藤さんの考え方、好きだな。私の中の不幸が浄化されていく。

「そうですね。何だかシンデレラになった気分。」

「シンデレラって…俺は王子か?面倒くさいから間違っても俺に惚れるなよ。」

「惚れませんよーだ。彼氏と別れたばかりでまだ恋愛する気になりません。…というか私は義雄の彼女にもなれてなかったのかも。いつも『るな』って源氏名でしか呼んでもらえなかったし。都合のいい女だったのかな。」

義雄の事を思い出すとまた気分が落ち込んできた。
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