明日は明日の恋をする
「部屋寒いな。」

そう言いながら進藤さんはリビングの暖房スイッチを入れる。そして着ていたコートとスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めてこっちを見た。

「コーヒーでいいか?」

「あっ私入れます。」

「いいから座っとけ。」

進藤さんはコーヒーをソファー前のテーブルに置き、自分もソファーに座る。

「何かあったのか?」

「何でそう思います?」

「いつもと様子が違うように見える。」

鋭いな。じぃっと私の顔を見て返事を待っている。

「言わないでおこうかと思ったけど…今日、偶然美玲さんと会って話をしました。」

「…じゃあ聞いたのか。婚約解消したこと。」

「…はい。」

進藤さんは俯き加減で話し始めた。

「明日香と付き合うようになってから、ずっと婚約解消というのが言葉が頭にあった。でも未来(さき)を見据えた時、それを実行することが出来なかった。」

「進藤さんには立場がありますからね。」

「明日香と別れてすぐくらいに、ナオトに相談したんだ。婚約解消で有栖川財閥と縁が切れた時、その損失は回復出来ると思うか?と…。ナオトに相談する内容ではないが、会社の事を考えろよって俺の考えを正して欲しかった。それなのにアイツは笑顔で何とかしようぜ的なノリでさ。」

その場面を思い出したのか進藤さんの表情が優しくなる。

「その後、会長…父に相談した。そしたら、有栖川財閥と縁が切れて去るような会社なんて放っておけ、また新しく信用できる会社を見つけて会社を立て直そうって笑いながら言うんだ。」

高瀬さんが営業一課に戻ったのは、営業に力を入れて会社の業績を回復させる為だったんだ。

「婚約解消してから予想通り業績はガタ落ちしたが、お嬢様のおかげで最悪の事態は免れた。だから今は業績回復に向けて頑張っているところだ。」

「でも頑張り過ぎるとまた体調崩しちゃいますよ。」

「気をつけるさ。」

進藤さんはそう言ってコーヒーを飲む。
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