明日は明日の恋をする
「そう聞かれると分からないな。気がついたら…か?ただ、恋愛感情を抜きにして気に入っていたのは最初からだな。」

「最初から?」

「あぁ、夜の店であった時からだ。」

私がホステス時代の頃って、本当に初めて会った時だ。

「仕事熱心だなっていうのが第一印象。誰にも媚びる事なく、とにかく場の空気を読みながら仕事をするのを見て指名してみたんだ。」

「よく見てますね。なんか恥ずかしい。」

「人間観察は仕事柄癖なんだ。それで実際に話をしてみて、やっぱり空気を読む能力が凄いと思った。あの時、俺が他の社長達に酒飲まされるのを知って言ってくれただろ?」

そう、あの夜は社長達もホステス達もみんなテンション上がってて、お酒のペースも早かった。酔った社長達が顔色変えずマイペースに飲んでいる進藤さんを、今日は酔い潰れるまで飲まそうみたいな話をしてるのが聞こえ、思わず進藤さんに耳打ちしたのだ。

「失礼でなければ、少し薄めにお酒をお作りしましょうか?それとお酒を作るペースも下げますけど…。」

「…ありがとう。そうしてもらえると助かるよ。」

結果的に私のその行動が他のホステス達から見て、気が利かないだのお酒を作るのが遅いだのといちゃもんをつけられる原因になり、ひと騒動起こしてしまったのだけど…。

「あの時は凄く助かった。俺はあんまり酒に強くないから、あのまま飲まされてたら酔い潰れてただろうな。まぁ明日香は散々だっただろうけど。」

「お役に立てたのなら良かったです。」

「信用できる、仕事に責任を持つ、必要以上に俺に干渉しない、この条件に当てはまりそうだったのが明日香だった。だからハウスキーパーの仕事を頼んだんだ。」

「半強制的に仕事する事になりましたけどね。」

私は苦笑いをする。けど、ちゃんと仕事振りを見て声をかけてくれたのは嬉しかった。

「借用書の事か?俺的にはどうでも良かったんだが、あれはナオトの提案だ。あの夜の一連の流れを話したら、じゃあ借用書を見せたら確実に仕事してくれるよって面白がって…ちょっとした遊び心だな。」

なるほど、借用書は高瀬さんの考えだったのか。きちんと言ってくれても仕事を引き受けてたと思うのに。
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