My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
食堂に入ってきたのは黒髪をきっちりオールバックにした男の人。
宿の人が起きてきたのかと思ったが、その格好を見てすぐに違うとわかった。
しっかりと防寒対策された旅人の様相、そして腰には長剣を携えていた。
30代半ば程だろうか、私を見て酷く驚いたように目を見開いているその男の人に、私は慌てて挨拶をした。
「おはようございます!」
向こうもまさかこんな早朝に人がいるとは思わなかったのだろう。
なんだか悪いことをしていた気分になり、私は弁解するように早口で続ける。
「の、喉乾いちゃって、何か飲み物もらおうと思ったんですが、早過ぎたみたいで」
はははと空笑いしながら言うと、ようやくその人が口を開いた。
「お前は、……銀のセイレーン!」
「!?」
焦って自分の髪を確認するが黒髪のまま。
そうだ、歌っていないのに、銀に変わるわけがない。なら何で……!?
その人の目つきがいつの間にか驚きから怒りの色に変わっているのに気付き、私は後退る。
「まさか、こんなところで再び会えるとは。私の運もまだ尽きてはいなかったようだ」
再び……?
その言葉を頭で反芻しているうち、彼の手が剣に掛かった。
それを目にした途端、私は思い出す。
(あの時の、――お城にいた一番偉そうなグラーヴェ兵!!)