My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
ガクガクと足が震え出す。
剣が鞘から引き抜かれるのを見ながら覚束ない足取りで更に後退すると、背後にあった椅子が早朝の静けさの中派手な音を立てて倒れた。
上にいるセリーンに助けを求めたくとも、一つしかない入り口の前に男がいる。
大声を上げたくても恐怖で喉が閉まってしまったのか小さく掠れた声しか出てこない。
ラグはとっくにこの町を出て居ない。――誰もいない!
「あの時お前に逃げられ、それからこの私がどんな屈辱を味わったか……」
その恐ろしい形相に、この世界に来て初めて味わった「死」への恐怖が瞬時に蘇る。
(私、ここで死ぬの? この世界で? 元の世界に帰れないまま、此処で一人で?)
――そんなの嫌だ!!
私は震える足に渾身の力を入れ、とにかく相手との距離をとろうと思いきって背を向け駆け出した。といってもそこまで広くない部屋。逃げ回るにも限りがある。でも剣が届かない距離をとれば切られることはない。その間隙を見て2階のセリーンのいる部屋に行くことが出来れば――だが甘かった。
頭に激痛が走る。一つに結んでいた髪の毛を引っ張られたのだとわかると同時、私はバランスを崩してその場に倒れ込んだ。
そのままぐいと髪の毛ごと持ち上げられ痛みに顔をしかめながらも薄目を開ける。間近に男の顔があった。
「二度は無い」
言うなり男は私の口に布のような固まりを押し込んできた。
いきなりのことにえずきそうになるが、それも出来なくて苦しくて涙が滲む。
「これで歌えまい?」
その言葉で漸く理解する。この人は銀のセイレーンである私の口を、歌を封じたのだ。