My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
更に男は私に猿轡を噛ませ、あっという間に両手も拘束されていた。
だがこれほど近くにいても剣で切られることは無かった。
今すぐに殺されるわけではないのだろうか。
恐る恐る見上げると男はにやりと笑った。
「歌が無ければお前など恐ろしくもなんとも無い。……いっそここで始末してやりたいが、王の信頼を取り戻すのが先だ。しかし、お前がこの町にいるということは、やはりストレッタが銀のセイレーンと手を組んだという読みは当たっていたようだな。知らぬ振りなど小賢しい真似を……」
ラグが危惧していた通りのことを言うグラーヴェ兵に私ははっとする。
昨日の朝ストレッタを発ったというランフォルセからの使者。それがこのグラーヴェ兵なのではないか。いや、きっとそうに違いない。
おそらくこの男もこの宿に泊まっていたのだ。
私は「んー」と声を上げながら首を振る。ストレッタと私が手を組むなんて全くの誤解だ。
「なんだ? 何か言いたそうだな。安心しろ……というのもおかしいが、お前を始末するのは私の仕事ではない。お前をどうするかは王が決めることだ。……まぁ、おかしなことを考えれば両足を切り落としてでも連れていくがな」
恐ろしいことを言われてもう一度強く首を振る。
先ほどから男の口から出る「王」とは、ランフォルセ国王のことだろう。
(ってことは、この人の目的は私をあのお城に連れ帰ること……!?)
折角一度逃げ出したのに、冗談ではない。
「善は急げだ。このまま出発するとしよう」
「!?」
言うや否や私は荷物のようにひょいと片手で抱え上げられてしまった。