My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
「んーー!!」
「黙れ! そうか、やはりこの宿に仲間がいるな? あの時の術士の子供か? それとも話で聞いた赤毛の」
「私のことか?」
その声に顔を上げるとセリーンが食堂の入り口に立っていて私は歓声を上げる。
彼女はすでに長剣を構え戦闘態勢を取っていた。
「カノン、すまなかった。私としたことが」
「そういった会話は私に勝ててからにすべきではないかな!?」
そう言って男は私を食卓の上に乱暴におろした。
息が詰まったが、すぐに視線を二人に向ける。――動いたのは二人ほぼ同時。
セリーンの剣の方が長い分有利に見えた。それに今まで一緒に旅してきて彼女の強さはわかっていた。だからすぐに勝負はつくものだと思った。
だが刃同士のぶつかる高く重い金属音はなかなか鳴り止まなかった。それどころか、セリーンの顔に焦りが見え始める。
広い場所でならともかく、この狭い上に障害物の多い部屋では彼女の扱う大剣は逆に不利だと気付いたのは、男が余裕の表情を浮かべ喋りはじめた時だった。
「話には聞いていたが、女だてらになかなかやるではないか。――だが、私は下級兵とは違うぞ」
男の笑みを含んだ声音に、セリーンの顔が屈辱に歪む。そして、
「カノン逃げろ!」
視線はそのままでこちらへ叫ぶセリーン。
私は慌てて身体をくねらせながら食卓から下りた。足はまだ自由だ。でもこの状態のセリーンを残して逃げるつもりはない。
(男は私はまだ始末しないと言った。でもセリーンは?)
おそらくは躊躇することなく――。