My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
不安ばかりでこの後のことを考えると怖くてたまらないのに、それでもなんとか絶望せずにいられたのは、エルネストさんの存在があったからだ。
いつも見守っていると言っていた彼。その言葉が今の私の支えになっていた。
ルバートで私が一人になってしまったとき、セリーンの前に現れたという彼。
もしかしたら今回も――。
「近くに川があるな。少し休憩するとしよう」
上から降って来たその声に正直ものすごくほっとした。
ようやく、少しの間だけでもお尻の痛みから解放される。
それに川と聞いて思わず喉が鳴っていた。身体が水分を欲していた。結局朝から何も口にしていないままだ。
でも、フィエールがこの猿轡を簡単に外してくれるとも思えない。でもなんとか、口の中に入っている布を湿らせてくれるだけでもいい。少しでも水を飲みたかった。
そして確かに少しして小さく水音が聞こえてきた。
「降りろ」
先にアレキサンダーから降りたフィエールにそう言われ、両手が使えない状態でどうやってこの高さから降りればいいのかとキョロキョロとしていると小さくため息が聞こえた気がした。
「歌が無ければ本当にただの小娘だな」
呆れたように、まるで誰かのように言われて思わずむっとする。
「何も知らない者が見たら、私の方が悪人のようではないか」
無遠慮に伸びてきた腕にわき腹を掴まれ私は軽く地面に……いや、雪面に下ろされた。
目の前には幅3メートルほどの川がゆったりと流れていた。
雪の積もった大きな岩や石がそこら中にごろごろしていて、川に近づくには十分に気をつけないと滑って転んでしまいそうだ。
ちらちらと舞い降りてくる雪が次々に水面で解けて消えていく様は、状況が状況でなければとても幻想的な風景に映っただろう。