My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2

「逃げようなどと考えるなよ」

 言われて私は不本意ながらも小さく頷く。

 ――全く考えなかったわけではないが、たとえこの男から逃げきれたとしても一人でこの雪山に残されて無事でいられるとは思わなかった。

 しかし寒い。手が自由であったら今すぐ自分の身体を抱きしめたかった。
 それにお尻がひりひりと痺れて、後ろで縛られている手で恐る恐る触れてみたがそこはすでに感覚が無くなっていてげんなりする。
 極めつけにまた熱が上がって来たのが、それともずっと緊張の中にいるせいなのか、頭の芯がぼうっとして立ちくらみがした。

 バシャっという水音に気付いて見ると、アレキサンダーが水面に口をつけたところだった。
 フィエールもその傍らで腰を屈め、革の袋のようなものに川の水をたっぷりと入れていた。そしてそれをごくごくと美味しそうに飲み始めた。

 またもごくりと鳴る喉。私が一歩動くとフィエールの容赦無い視線が飛んできた。

「なんだ? お前も水が欲しいのか?」

 思わずコクコクと頷く。すると男は立ち上がりその革袋を持って私に近寄って来た。

 やっと水が飲める! そう思った次の瞬間、私の前に差し出されたのは水ではなくて、ギラリと光る剣先だった。

「水を飲む間だけそれを外してやる。だが少しでも声を出したなら……わかっているな」

 喉元に剣を突き付けられ、私は全身を硬直させながらも小刻みに何度も頷いた。

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