My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
辺りが薄暗くなり視界が悪くなってきてもアレキサンダーは全くスピードを緩めなかった。それどころか少し前に雪が止み、更に速くなっているように思えた。
フィエール曰くアレキサンダーは夜目が効くらしく、夜の合間も走り続けることが可能なのだそうだ。
ラグの予想よりもストレッタへの到着が早かったのはこのせいかもしれないと、私は朦朧とする頭で考えていた。
――確実に熱が上がってきていた。
お尻の痛みは流石に慣れてきたのか、それとも感覚が無くなってしまったせいかそれほど気にはならなくなっていたが、それよりも今は意識を保つのに精いっぱいだった。
睡魔とは違う別の何かに呑み込まれそうで、私は必死で目を開け前方を見つめていた。――そんな時だった。
アレキサンダーが突然、急ブレーキを掛けたように足を止めた。
「!」
頭が大きく揺れたせいで激しい頭痛と眩暈に襲われる。……フィエールに支えられていなかったら、きっとアレキサンダーの鬣に思いっきり顔面から突っ込んでいただろう。
「どう、どう、アレキサンダー、大丈夫だ。全く、運が悪いな。……モンスターか」
「!?」
その言葉に私は慌てて顔を上げ辺りを見回した。しかしもうどこも真っ暗で何もわからない。
ただ、グゥルルルという低い音……いや、唸り声が確かに前方から聞こえた気がした。
ドクン、ドクンと、それでなくとも熱のせいで速くなっている胸の鼓動が頭に重く響く。
「動くなよ」
それはおそらく私への言葉。
私を支えていた腕が離れ、揺れと雪を踏みしめる音とでフィエールがアレキサンダーから降りたのだとわかった。
ぞくりと身体が震えたのは人の温もりが無くなったせいか、それとも恐怖によるものだろうか。