My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
パチパチという小さな音に気付き、狭い視界の中うっすらと見えたのは木目の壁。
(壁……?)
そして足元がとても温かいことに気付く。そちらに視線をやり、パチパチという音が暖炉で火が爆ぜる音であることがわかった。
「気付いたか」
その声からは安堵の響きが感じられた。
声の方を見ると、そこには防寒具を脱ぎ先ほどよりもすっきりとした格好のフィエールが胡坐をかいて座っていた。
ここは、と口を開けようとして、まだ口の中に布が入ったままなことに気付いてげんなりする。
どうやら山小屋のようだ。隅の方には暖炉用の薪が積まれ、壁には斧がかけられていた。
(――そっか。私、結局気を失っちゃったんだ)
すでに夜が明けたのか、窓の向こうがうっすらと明るくなっている。
とりあえず起き上がろうとして、肩から何かが擦り落ちた。それはフィエールが先ほどまで身に着けていた防寒服だった。
思わずフィエールを見ると慌てたように視線を逸らされた。
「死なれては困ると言っただろう。熱いと思っていたら眠った途端冷たくなりおって。丁度避難用の小屋があったのでな、アレキサンダーを休ませるためにも借りたまでだ」
その言い方が、なんだかとある人物を激しく彷彿とさせて、心にもぽっと小さな火がともった気がした。
(……悪い人では、無いんだよね)
ただこの人は自分の名誉を回復させるために必死で動いているだけなのだ。
だからと言って、セリーンを傷つけたことは許せることではないけれど……。
私の視線が気になったのか、フィエールは急に立ちあがり私を厳しい目で見下ろした。
「もう十分温まっただろう。そろそろ出発するぞ」
私はこくりと頷き、フィエールと共に山小屋を出た。