My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
このままフィエールとランフォルセ王の元へ行ってしまったら、きっと二度と皆に会えない。
この世界でいつも私の傍にいてくれた、ラグ、セリーン、ブゥ。それにエルネストさん。
そして、家族や友達にも会えないままだ。
――ゆっくりと目を開く。
「な!?」
突然、昨日と同じ子守唄のメロディをハミングし始めた私にフィエールが驚き声を上げた。だが、すぐに嘲笑うかのように鼻を鳴らし言う。
「無駄なことを。その状態で歌が使えないことはわかっているのだ」
それでも私は歌い続ける。
フィエールの言う通り意味が無いことはわかっていた。――でも、歌わずにはいられなかった。
(私がこの世界で出来ることは、これしかないんだから)
強くもない、頭が良いわけでも、運動神経が良いわけでもないこの私がこの世界に来て唯一手に入れた能力。
それがこの銀のセイレーンの力。――歌の力だ。
(今私に出来ることは、歌うことだけ……!!)
徐々に声を大きくしていく私に、フィエールも流石に焦ってきたのか怒りを露わにし始めた。
「おい、いい加減に黙らんと今ここで斬り捨てるぞ!!」
私はその怒声に、怖さに負けないように更に大きな声で歌う。
眠れ、眠れ、そう強く想いながら。
自分のこの力を信じて。
――皆と、また会うために……!
「!!」
その時、背後でフィエールが息を呑むのがわかった。
異変が起こったのはそれとほぼ同時。
朝からずっと同じ速度で走り続けていたアレキサンダーが急にバランスを崩したように横にぐらついたのだ。
そして気付く。身体が揺れたせいで一瞬目の端に映った自分の髪の毛が銀に輝いていることに。
すぐ背後にいるフィエールがそれに気付かないはずがない。
「アレキサンダー、しっかりしろ!! くそ、目が……っ」
手綱でアレキサンダーを誘導しながら辛そうな声を出すフィエール。彼にも効き始めているのだ。
私はそのまま歌い続ける。――だが、そこまでだった。
「止めろと言っているのが、わからんのかぁ!!」
「っ!!」
それまで私を支えていた腕が離れ、頭を横殴りにされた。
一瞬目の前が真っ白になる。
支えをなくした私の身体はそのまま落下する、――そう思った。
だが、その衝撃は無く、その代わりに覚えのある浮遊感に襲われた。
「な、なんだあれは……!!」
そのとき聞こえたのはフィエールの裏返った声とアレキサンダーの狂ったような嘶き。でもその声も視界も、直後凄まじい音によって掻き消えた。
それは風の音。
そして精一杯に開けた視界の中見えたのは、大きな白い竜。――いや、
(ビアンカ……!)