My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
――そうだ。ここにいる人達は皆、私を化け物扱いなんてしない。同じ人間として見てくれている。
そんなごく当たり前のことに、じんわりと胸が温かくなる。喉がきゅっと苦しくなる。
「ありがとう、ございます……っ」
「え!? ちょ、カノンちゃん泣いちゃったけど!?」
昨日からずっと張りつめていたものが、ここで切れてしまったみたいだ。
後から後から涙が零れてきて困った。
「お、俺が泣かせたのか!? なぁ、おいラグ! 俺なんか悪いこと言ったか!?」
慌てた様子のアルさんに泣きながら笑ってしまった。
セリーンがそんな私の頭を優しく撫でてくれた。――でも、そのときだ。
「うるっせぇんだよ!!」
それまで黙りこんでいたラグの甲高い怒声が飛んできて途端涙が引っ込んだ。
彼はこちらを見てはいなかった。そしてまた口を閉ざしてしまった。
――彼が不機嫌なのはいつものことだけれど、やはり焦ってしまうのは私がまだそれに慣れていないからだろうか。
でもそこで私はまだ彼にお礼を言っていないことに気がついた。彼はそんなことで怒るようなタイプではないけれど、私は慌てて涙を拭って口を開いた。
「ラグ、来てくれてありがとう! すごく嬉しかった! さっきも助けてくれてありがとう!!」
逆風に負けないよう声を張り上げる。すると、少しの間を置き、彼がどうにか聞き取れる声で低く言った。
「……お前、さっきあいつの前で歌ってただろう」
「うん。一か八かだったけど、でもちゃんと効いたみたいだったよ!」
私は少し自慢げに言う。ハミングでもセイレーンの力が発揮できるとわかったのだ。
あのときはとにかく必死だったけれど、今改めて考えるとこれはかなり凄い発見ではないだろうか。だが、
「なんでそんな無茶しやがった!」
またしても飛んで来た怒声にびくりと肩をすくめる。
そしてこちらを向いた少年の顔を見て、咄嗟に彼が今少年の姿で良かったと思った。それほどラグは怒っていたのだ。