My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
「全く、可愛いやつめ」
「え?」
耳元で、それまでずっと黙っていたセリーンのうっとりとしたような声が聞こえて私は視線を向ける。
彼女はラグの小さな背中を愛おしげに見つめていた。
「あの子は、本来責められるべきである私に何も言わなかった。それよりも自分があの時あの場にいなかったことを悔いているんだろう。それでずっとああして苛ついているのだからな。可愛いだろう?」
そう言って優しげに微笑むセリーン。そしてこっそり教えてくれた。
「……あの子の取り乱した姿、お前にも見せてやりたかったぞ」
私は彼女の視線を追うようにしてラグを見た。
彼の背中はまだ怒っているように見えた。でも、先ほど怒鳴られて落ち込みかけていた私の心はいつの間にか灯が点ったように温かくなっていた。
(ラグ、そんなに心配してくれてたんだ……)
もう一度ちゃんとお礼が言いたい。そう思った。
彼の取り乱した姿は全く想像つかないけれど、あんなに急いで向かっていたストレッタから引き返してきてくれたのは事実だ。――と、そこで大事なことを思い出す。
「そ、そうだ。ストレッタから引き返してくれたってことは、例の話はまだしてないってこと?」
銀のセイレーンをラグが始末したと言う嘘の話。それを伝えるためにラグは急いでストレッタに戻ったのだ。
するとラグが不機嫌そうに、それでも答えてくれた。
「一応、言伝は頼んできた」
「じゃぁ、もうストレッタには行かなくていいの?」
「あぁ。だがランフォルセにもうこの話は通じねぇだろうな……」
そうだ、ランフォルセからの使者であるフィエールに見られてしまったのだから。
「まぁ、その辺りはまた後で考えるとしてだ。アル、お前ここで降りろ」
「えぇ!?」