My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
その宿は木造二階建てで、入ってすぐが食堂。その奥が厨房になっているようだった。
二階が客室のようだが、外から見た感じでは部屋数は2つあるかどうかのこぢんまりとした宿だった。
「病人ってのは?」
やはり笑顔も無く女の人――女将さんだろうか? はドアを閉めた私たちを見回し言った。
元々勝気そうな目元に酷いくまが見て取れ、なんだか私たち以上に疲れているように見える。
年はセリーンより少し上ほどに見えたが、本当はもう少し若いのかもしれない。
「この子だ」
「セリーンもだろう?」
すかさずアルさんが付け加え、私もセリーンを見上げうんうんと頷いた。
あんな大怪我をしたのだ。口に出さないだけで本当は辛いに決まっている。
セリーンは小さく息を吐いただけで否定はしなかった。
「お腹は減ってないかい?」
「減ってます!」
思わず挙手しながら大きな声を出してしまった。
すると女将さんは初めて微かにだが目を細め笑ってくれたようだった。
「簡単なもんになっちまうけど、すぐに人数分作ってきてあげるよ」
「ありがとうございます!」
「よろしく頼むぜ~」
待ちきれない思いで厨房に向かう女将さんを見送る。だが、彼女は途中ぴたりと足を止めゆっくりとこちらを振り返った。
「この村に居る間、なるべく外に出るんじゃないよ」
そしてこちらが疑問の声を上げる前に、厨房へと入っていってしまった。
「……やっぱ、なんかありそうだな」
「すっごく疲れてそうでしたよね」
アルさんと小声で話していると、それまで黙っていたラグがイラついたように口を開いた。
「おい、余計なことに首突っ込むなよ。あまり長居するつもりはないからな」
「ま、そうだな、休みに来たんだしな。セリーンとカノンちゃんには早く食って、早く寝て、早く良くなってもらわないとな」
アルさんはそう言って笑っていたけれど、私はどうも嫌な予感がしてしょうがなかった。
(色んなことがあり過ぎてマイナス思考になってるだけだよね)
そう考えることにし、私は厨房から女将さんが出てくるのを楽しみに待つことにした。