My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
女将さんが持ってきてくれたのは人数分の具沢山ミルクシチューだった。
具は柔らかくスープはトロトロで、少し薄味だったけれど空っぽな胃にはそれがかえって優しく感じられた。
「美味い! 今まで食った中でも最っ高のシチューだぜ!」
「ふふ、ありがとうよ」
アルさんの少し大げさにも思える賛辞に、女将さんは満更でもないふうに今度こそ笑ってくれた。
笑うと気さくなお姉さんという感じでとても素敵なのに。そう思った矢先、またふっと笑顔が消えてしまった。
「普段ならもっとたくさん出してあげられたんだけどねぇ。今日はそれで勘弁しておくれね」
そう言って大きな溜息をついた。
私たちは顔を見合わせて(ラグは一人黙々とシチューを食べていたけれど)結局アルさんが女将さんに事情を訊ねた。
「村で何かあったのかい?」
と、丁度その時だった。
外が俄かに騒がしくなった。人の笑い声、そしてなにやら叫ぶような大声。
「なんだ?」
セリーンが席を立ち窓を覗こうとした。だが、
「見ちゃダメだよ!」
女将さんの小さな、でも鋭い声にセリーンも足を止めた。
そして女将さんは真剣な面持ちで言う。
「ここにはもう来ないだろうけど、念のためアンタたちは上に行っていたほうがいいかもしれないね」
「一体、」
そう、再度アルさんが口を開けたのと同時だった。
『はーははは! ラグ・エヴァンス様がまた来てやったぞーー!!』
「ぶーーーー!!」
外から聞こえてきたその大声に、ラグがシチューを思い切り噴き出した。