My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2

「げほっ、げほっ!」

 苦しそうに咳込むラグを見ながら、私の頭の中は疑問符でいっぱいだった。

(今、ラグ・エヴァンスって言ったんだよね?)

 それは今目の前にいるラグのフルネームで、だからラグも驚いて今こうして咳き込んでいるのだろうけれど。

 と、女将さんがため息をつきながら小さく言った。

「驚くのも無理ないさ。なんでかわからないけどこの村をいたく気に入ってくださったようでね、飯時になるとああしておいでなさるのさ」

 そのあからさまに悪意を含んだ物言いに私は焦る。それがラグ本人に向けられたものではないにしても、彼の名が決して良くはない意味で有名なことを、もう知っていたから。

「わかったろ。だから暫くの間二階に行って静かにしていな」
「あ、あの」
「そうだな、んじゃちょっと上がらせてもらうよ」

 私の言葉を遮るようにしてアルさんが席を立った。見上げると彼の意味ありげな視線とぶつかって、私は口を噤んだ。

「二階にシチュー持って行ってもいいかな」
「勿論さ、温かいうちに食べておくれ」
「ありがとうな。ほら、お前いつまで咳き込んでんだよ。行くぞ」

 アルさんは自分とラグの分のシチューを素早く持って階段へ向かった。私も慌てて自分のシチューを持ってその後を追う。セリーンとまだ軽く咳き込んでいるラグもその後に続いた。

「二部屋あるからね、好きに使っておくれ」
「ありがとうございます」

 私は小さな声で返事をし階段を上がっていった。その間も外での騒ぎはずっと聞こえていた。

< 65 / 110 >

この作品をシェア

pagetop