My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
アルさんに呼ばれ、ドアを閉めようとしていた私はその手を止めた。
彼はドアの間から顔をひょっこり覗かせ小声で言った。
「アイツ、単にカノンちゃんに早く休んで欲しいだけだから」
「え?」
「じゃ、ゆっくりおやすみ~」
そして満面の笑みを残しパタンとドアを閉めてしまった。
私は少しの間その前で立ちつくす。
(えーっと……?)
その笑顔の意味をわかりかねた私は首を傾げたままゆっくり回れ右をしてセリーンのいるはずの部屋のドアを開けた。――だが、セリーンの姿が見当たらない。
「セリーン?」
隣と同じ作りの部屋を見回して、すぐにベッドで横になった彼女を見つけた。
嫌な予感がしてシチューを丸テーブルに置き駆け寄ると、案の定セリーンは気分悪そうに目を閉じていた。
「セリーン!」
名を呼ぶと彼女はゆっくりと目を開け私を見上げた。
「すまない、少し眩暈がしてな」
「大丈夫? あ、ラグ達呼んで来ようか!」
「いや、いい。こうして横になっていればすぐに良くなる」
そうしてもう一度セリーンは目を閉じてしまった。
――やはり顔色が悪い。傷が治ったと言えあれだけの出血、それに私を捜すために昨日から寝ていないと言っていた。
私のために……そう思ったら居ても立っても居られなくて今閉めたばかりのドアとセリーンとを交互に見つめる。
セリーンはいいと言ったけれど、やはりラグ達を呼んできた方がいいのではないか。
しかしセリーンは弱っているところを彼らに見られたくないのかもしれない。現に彼らと離れた途端のことだ。
逡巡しているとセリーンが私を呼んだ。
「カノン」
「な、なに?」
ベッド脇に膝を着いて訊く。何かして欲しいことがあったら何でも言って欲しかった。
セリーンがゆっくり首を回して私の方を見る。そして。
「あの時は守ってやれなくて、本当にすまなかった」
私は目を見開いた。