My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
――あの時とはフィエールに襲われた時のことだろう。
まさかそんなことを言われるとは思っていなくて、私は強く首を振った。
「謝るのは私の方だよ! 私のせいでセリーンあんな酷い目に合ったのに!!」
そもそも私と一緒にいなければセリーンはあんなに酷い傷を負わずに済んだのだ。
ラグ達が戻ってきてくれていなかったら、彼女とはもう会えなかったかもしれないのだ。
改めて今目の前に彼女がいることは奇跡に近いことなのだと思い知り、ぞっとした。
それなのに――。
「カノンが気にする必要は無い。私の――傭兵である私の完全なる落ち度だ。逆に庇われ命を救われた。……これでは傭兵失格だ」
「そんな!」
自嘲するような笑みを浮かばせ天井を見上げた彼女に私はもう一度首を振る。
「私はセリーンのこと、もうとっくに傭兵だなんて思ってないよ!」
セリーンが瞳を大きくしてこちらを見た。
「なんていうか、私、セリーンのことお姉ちゃんみたいに思ってるから。だからセリーンが傷つくのは見たくないし、セリーンが死んじゃったらどうしようって――」
セリーンの手が私の頬に触れた。いつの間にか涙が零れてしまっていた。霞んだ視界の向こうで彼女が優しく微笑んでいる。
「ありがとうカノン。私も、お前のことは妹のように思っている。……こんな頼りのない姉だが、これからも護らせてもらえるか?」
「わ、私の方こそ!」
“銀のセイレーン”なんて言われている私と一緒にいたらこれからもっと危険な目に遭うかもしれない。
フィエールよりももっと強い相手と戦うことになるかもしれない。
――でも、セリーンがいないなんてもう考えられないから。
「こんな面倒な妹だけど、これからもよろしくお願いします!」
必死な想いで頭を下げると、セリーンがその頭をぽんぽんと叩いた。
顔を上げるとセリーンが楽しげに笑っていた。
「初めて会ったときもそんなふうに頭を下げられたな」
「そう、だっけ……」
なんだか急に恥ずかしくなって私は涙を拭った。
朝から涙腺が弱い気がするのはやはり身体がまだ本調子で無いからだろうか。
でも今はやっぱりセリーンが心配で。
「本当にラグ達呼んで来なくて平気?」
「あぁ、こんなこと大戦中はざらだったからな。食べて寝ればすぐに良くなる。カノンも早くシチューを食べて休むといい。お前が元気になれば奴も好きに動けるだろうからな」
「え?」
セリーンの視線がドアの向こうへと移動する。奴とはラグのことのようだ。
そして先ほどアルさんにも言われた台詞を思い出す。彼もラグは早く私に休んで欲しいだけだと言っていた。
(もしかして――)
「ラグがあの偽者をすぐにどうにかしないのは、私が休めないから?」
「あの時奴が外に出て行っていたら、お前も気になってついて行っただろう?」
「う、うん」
多分、いや、確実について行っただろう。
ということは、さっきあんなに怒っていたのも私を心配してくれてのことなのだろうか。