My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
私がまだドアの前で拳を握っているとセリーンが小さく息を吐いた。
「術士は今や畏怖の対象だ。あの野盗のように少しでも術が扱えれば奴だと信じてしまうほどにはな」
セリーンがドアの向こうに視線をやりながら静かに続ける。
「本物だということがばれていないだけまだマシだろう」
「もしばれたら?」
私が訊くとセリーンは少し間を置いて小さく言った。
「そうなったら奴の方から此処を出ると言っただろうな」
「うん。……そうだね」
ラグならきっとそうするだろう。
と、そこでセリーンがふっと笑みを見せた。
「あの子と初めて会ったときのことを覚えているか?」
あの子……というのはラグが小さくなった姿のことだろう。私はあの草原でのことを思い出す。いつもはつい笑ってしまうのだけれど。
「あの子は私に術士だということがばれた時に、嫌なら今すぐ帰ってもらって構わないと言ったんだ。とても言いにくそうにな。あの子はもしかしたら今までずっとこんな目に遭って来たのかもしれないな。全く、いじらしいったらないなあの子は!」
“あの子”という所を強調した言い方に苦笑しながらも、私もこれまでの彼を思い出していた。