My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2
ラグは最初から人前で術を使いたがらなかった。それは呪いのせいだけではなく、セリーンの言う通りこれまで辛い目に遭って来た彼なりの処世術なのかもしれない。
この世界に来たばかりの私でさえ、突然使えるようになったこの力のせいでこんなにも嫌な思いをしているのだ。
ずっと以前から術士として、――魔導術士として生きてきた彼は、一体これまでに何度こんな場面に遭遇しているのだろう。
特に彼の名は特別な意味を持っている。
(ちゃんと話せばそこまで怖くないってわかるのにな。……確かに怖いときは怖いけど)
しかしこの村の人達はきっとこれからも、いや、こんなことがあったからこそこれまで以上に術士を畏怖の対象として見るのだろう。
彼らは、私たちがこの村を去ってやっと心から安堵し喜べるのだろうか。そう思ったらすごくやるせない気持ちになった。
「さ、早く寝てしまおう。明日は早いぞ」
「うん」
その言葉に私は漸くその場から動きベッドへ向かった。
でも横になってもなかなか寝つけない。
(昼寝しちゃったようなもんだもんね。……ラグ達は、もう寝られたかな)
きっと明日は日が昇ったらすぐに出発だ。
私は無理やりに目を瞑り眠りに入った。