終着駅は愛する彼の腕の中

 そんなエイミを羽弥斗は抱きしめたまま、暫く黙っていた。



 暫く泣くとエイミは落ち着いてきた。



「もう大丈夫? 」

 羽弥斗がそっと声をかけると、エイミはこくりと頷いた。


「ねぇ。エイミって言うのは、お店での名前だよね? 」

「はい・・・」

「じゃあ、もうお店じゃないから。本当の名前を、教えてくれる? 下の名前だけでも構わないから」

「・・・ノエリ・・・城里(しろさと)ノエリです・・・」


 名前を聞くと、羽弥斗は「やっぱり」と納得した目をした。

 だが言葉には出さなかった。


「ノエリ。可愛い名前だね。じゃあ、これからはノエリって呼ぶよ」

「別に・・・好きにして・・・」


 無愛想な答え方をするエイミことノエリ。


「じゃあノエリ。このお金、銀行に取りに行く? それとも、別の日にする? 」

「・・・取りに行きます。・・・」

「分かったよ、じゃあ僕も一緒に行くね」


 



 それから銀行に行って現金にしてもらった10憶は、ノエリの口座に入金された。


 本当に10憶は言っていると、ノエリは通帳残高を見て少しだけ驚いた目をしている。


 
「これで、ちゃんとノエリのお金になったよ。安心した? 」

 羽弥斗に尋ねられると、ノエリはこくりと頷いた。


 羽弥斗は時計を見た。


「あ、ノエリ。駅に行こう。ノエリが幸せになれる、とっておきなものを見せてあげるから」



 と言って、羽弥斗はノエリを車に乗せた。


 今日は羽弥斗の車で来ている。

 普通の乗用車でハイブリッドの車。

 色はシルバーで、車内は綺麗に整っている。


 後部座席に乗ろうとしたノエリを、羽弥斗は助手席に乗せてシートベルトをしてくれた。


 シレっとした顔をしながらも、何も言わずに乗せてもらったノエリ。


 2人はそのまま駅へ向かった。
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