ただ好きだから
登坂が部屋へ戻ると、夏月は眠そうにソファーにもたれかかっていた。


慌てて、夏月の隣に座る登坂。


「夏月さん、眠い?」


「うん…もう限界」


「ちょ、寝るな」


焦る、登坂。


急いで店員を呼び、会計とタクシーを頼んだ。


「夏月さん、帰るよ」


「うん」


登坂に支えられて、タクシーに乗り込む。


「臣…くん…」 


「何?あぁ、寝るな〜っ」


「もう…飲めないよ…」 


夏月は、登坂の肩にもたれかかり撃沈した。


「夏月さーん、ダメだって、おーい、起きろぉ」


焦りまくる、登坂。


「お客さん、どこまで?」 


タクシードライバーに急かされるが、


「えっと、どこのホテルか聞いてないしな。あぁっ、もう、とりあえず、俺の家か」


半分焼けくそになっていた。


マンションの前で降り、ドライバーに手伝ってもらい夏月を背負う。


少し回りをキョロキョロと確認すると、急いで入り口に向かう。


「目、覚ましたら…ホテルに送って行くしか仕方ないよな、はぁっ、ボタンに手が届かない」


オートロックの番号を入力するのも一苦労だ。


次は、エレベーター、その次は玄関。


やっとの思いでリビングにたどり着いた。


そぉっと、夏月をソファーに下ろす。


「はぁっ、ライブよりハードだった」


そう言って、床に倒れた。


息が落ち着き、ゆっくり起き上がると夏月の顔を覗き込む。


夏月の顔に掛かった髪を指でそっと退ける。


「寝顔、可愛いな」 


ふと目に入る、唇や胸元。


(ヤバイっ、見るな見るな)


手で目を覆い、天井を見上げるように上を向き深呼吸する、登坂。


「誘ったのは、俺だけど。ったく、ガードがゆるいな」


そんな独り言をいいながら、キッチンへ。
 

「あぁ、酔いが覚めたな。飲み直そ」


冷蔵庫から、缶ビールを取り出しリビングへ。


一人暮らしには大きすぎるソファーだが、
ベッドがわりにすると狭い。


ソファーの下に座って、ビールの蓋開ける。


シュポッ


一口、飲んでまた夏月を眺める。


先日、助けて貰って以来もう一度会いたいと思っていた人が今ここにいる。


不思議な感覚だったが、この偶然の出会いに何か縁を感じる登坂だった。


「そうだ」


寝室に行き肌掛けを持ってくると、そうっと夏月にかけた。


「こうしとけば、目のやり場に困らないだろ」


独り言をいいながら、またソファーにもたれる。


「待てよ、もしこのまま、朝まで起きなかったらどうする?やっぱ、途中で起こした方がいいか、それでホテルまで送っていけばいいってことか」


一人でブツブツと呟きながら、照明を調節したり、エアコンの温度を確認したり、なかなか落ち着かない登坂だった。
< 10 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop